ある生産者が、植付が終わった後に、苗床に残った苗を使って酵素液をつくるという話をしてくれた。 苗と糖蜜を混ぜるということだったので、これはいわゆるサツマイモを使った「天恵緑汁」だなと思ったので、「天恵緑汁」について書いてみる。
農文協の現代農業用語集による「天恵緑汁」の説明は次の通りである。
ヨモギやクズなどを黒砂糖と混ぜて容器に入れておくと、一週間ほどで発酵液(菌液)ができる。一滴も水を入れなくとも、黒砂糖の浸透圧で植物エキスが抽出されるとともに、酵母菌や乳酸菌の働きで発酵する。発酵が加わることで、単なる抽出液以上の効果が期待できる。
http://lib.ruralnet.or.jp/genno/yougo/gy227.html
「天恵緑汁」とは天然の植物活性剤のようだ。低農薬や無農薬栽培ではよく使われている。
では、どのような成分があって、どのような効果があるのだろうか。
まずは、黒砂糖に含まれる成分である。
黒砂糖には、主成分であるショ糖以外にも、ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄など)が豊富に含まれており、ビタミン(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6など)も含まれている。
サツマイモの生育初期(定植後2~3週間後)にショ糖を与えると、有意に塊根乾物重が増加する効果や、苗をショ糖液に浸してから定植すると活着率が向上し、その後の発根も促進されることも報告されている。このようにサツマイモ栽培においてショ糖は有用な成分である。
各種ミネラル分については言うに及ばずなので割愛する。ビタミンは肥効面での効果を耳にすることはないが、マイナスにはならない程度だと思われる。
次は、微生物(酵母菌や乳酸菌)である。
こちらは乳酸菌・酵母菌に代表される有用微生物群が土壌を改良し、糖度や食味が向上・収量増加などの効果を生むと言われている。これらの微生物の増殖は好気条件下で活発になるので、 「天恵緑汁」 を作る際に密閉するのは良くない。
また個人的に注目しているのは、サツマイモ内生細菌である。サツマイモが貧栄養土壌でも栽培が可能なのは、窒素固定内生菌が共生しているためと言われている。もしかしたら、サツマイモ内生細菌も増えていて、 「天恵緑汁」 を散布することでこれらが接種される効果があるかもしれない。
最後に、 植物ホルモンである。
「天恵緑汁」は若葉を使うことが推奨されている。なぜ若葉なのだろうか?
これは植物ホルモンをねらってではないかと思われる。植物ホルモンは茎や葉の先端部など若い組織で多く分泌されるからだ。
植物ホルモンは多くの場合に成長を促進する。サイトカイニン、アブシジン酸、オーキシンとサツマイモの塊根形成や肥大の関係を示唆する報告がある。
以前読んだ本には、サツマイモの絞り汁を与えることで、苗の発根が促進されたという記述があったので、根の成長に有用な成分(植物ホルモン)が絞り汁に含まれるのであろう。
以上、サツマイモの天恵緑汁には、ショ糖・ミネラル、有用微生物、植物ホルモンが含まれ、有用な効果を生んでいると思われる。
効果的な使用時期は、育苗中や生育初期(定植後2~3週間)に100倍程度の希釈液を散布。もしくは植付前に苗を浸す。
試しに小瓶で少量製造中。漬け込んだ次の日にはしみだした水分でいっぱいとなった。