見知らぬタイ人(以下、T氏)から日本のサツマイモについて教えて欲しいと突然メッセージがあり、サツマイモを通じた国際交流をかかげている身としては無視はできず、相談にのることにしました。
T氏がいうには、「T氏の出身地ではドリアンやキャッサバの生産が盛んであるが、今後はサツマイモに注目している。数種類のサツマイモ品種が栽培されているが、日本の品種ほど甘くなく、日本の品種を栽培したい」とのこと。
現地生産者価格を日本円にすると、キャッサバは9円/kg、サツマイモは100~300円/kgらしく、甘い日本の品種を栽培することで、現地生産者の新しい収入源になるのではという考えです。
少しやりとりを続けていると、3年前に書いたサツマイモ品種の海外流出問題にぶち当たる話でした。前回は人から聞いた話が中心でしたが、今回はその現実を目の当たりにしました。
メッセージのやり取り
私からは、「日本の品種を海外で栽培するには、育成者権が切れた品種か、育成者権が切れていない品種の場合は、法律に基づいた手続きが必要である」と説明しました。
T氏が言うには「日本のサツマイモ”べにはるか”がタイでは有名で、義姉が日本から輸入しているという店で買ったサンプルを送ってくれた」と、私に見せてくれた写真が次の通り。
私が「ベトナムや韓国で勝手にべにはるかが栽培されているのが問題になっているので、正式な手続きについて調べて連絡するよ」というと、T氏から「べにはるかは地元の10ぐらいの農園ですでに栽培されているよ」という衝撃的な答えが。さらに「でも、スーパーで売っているイモから苗をとって植えられますよね?」と言って、写真を送ってくれた。
私は「可能ではあるが本来それは禁止されている行為です。正式な手続きを行ったほうが良い。」といったところ、「合法な手続きがあればそれを行ったほうが良いと思う」と理解を示してくれました。
ただ、T氏からはさらに「コストがかかるのでは?コストがかかるのであれば彼ら(=ベトナムや韓国)が違法に行っている理由がわかる」と言われ、「その通り、コストはかかるからだと思う」と答えました。
するとT氏からはさらに「そのコストがタイと日本の両方の農家の利益につながるのであれば、そのコストをプラスしても良いはずだ。例えば、生産効率を上げるためのサポートや新種の開発などです。」と言われ、その通りだと心の中で思いながら、いったんお開きとなりました。
今回の件で思ったこと
農業に関する様々な施策が要因として関わっている
海外で日本の品種を栽培するためには、現地での品種登録が必要になると思います。サツマイモの幾つかの品種は中国などで品種登録を行っているようです。
現在、サツマイモは東南アジアを中心とした海外でも人気が高まっており、日本からの輸出量は増加しています。ただ、上のT氏とのやりとりでわかるように、生サツマイモの輸出は、品種を流出させていることとある意味同義です。そのためにも、実効性がどこまであるかは疑問ですが、少なくとも輸出先での品種登録は事前に行っておくべきだと思います。(たぶんされていない)
昨今、種苗法改正がいろいろと話題になりましたが、このような事象が発生していることを認識しておくべきだと思います。
また、農業の現場では、東南アジア諸国の労働力(外国人技能実習生等)が必要不可欠になっていますが、彼らが帰国する際に持ち出しているということもあるそうです。
輸出振興、種苗法、外国人技能実習生など、一見繋がりがなさそうなことも、裏ではいろいろ影響しあっているものなので、各方面に目を光らせながら、施策を考えて欲しいと思います。
パッケージとして輸出する仕組みが絶対必要
農林水産省のほうでJ-Methods Farmingという取組みがあります。日本の優れた農業技術をパッケージとして実証し、日本農業のモデルルームを他国に設置し、我が国の農業技術の優位性を実演するものです。
前回の記事にも書いた通り、日本人が海外での生産について積極的に関わって取り組むべきだと思います。一つの作物にはいろいろな技術(育種から栽培、加工、流通まで)が関わっていて、各技術を個別に持っていくのは非常に非効率的だし、あまり普及できないと考えています。なので、この取組みは考え方としては非常に良いと思います。
以下の写真が送られてきました。同じべにはるかと書いてあるが、食べてみると全然違ったと。原因としては、1)全く違う品種をべにはるかと詐称して売っている。2)栽培条件や貯蔵条件が異なる。が考えられると伝えました。
例えば、これが同じべにはるかだったとすると、栽培条件や貯蔵条件によって甘さはまた変わってきます。東南アジアは気温が高いので糖化が進まない可能性が高いと思います。
そうすると、サツマイモを糖化させる技術など、現地品種を使いながらも、品質を高めることができるのではないかと思います。
また、最後にT氏が言ったように、単なる農産物の輸出だけを考えるのではなく、双方にとってプラスになる仕組みを考える必要があると思います。ここは、国内生産者を優先する必要がある農林水産省としては難しい領域だと思いますが、国際協力の枠組みで何か考えられないかと思います。
サツマイモの栽培から販売までの仕組みをパッケージ化して世界展開することが、私が最終的に目指している形です。
引き続き、サツマイモに関して、縦にも横にも広げていけるように精進します。