農業DXから農業SXへ

農林水産省が農業DX構想を取りまとめて公表しています。
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/210325.html

「農業・食関連産業の関係者の方々が農業DXを進める際の羅針盤として、また、取組全体を俯瞰する見取り図として活用いただけるよう」と書かれているように、農業現場だけではなく、食関連事業者も対象に入っているというのが、スマート農業からさらに一歩進んでいると感じるところです。

ただ「農業のデジタル化」といっても、農作業から販売、管理まではスマート農業の範囲でこれまでにさんざん取り組んでいますし、サービスも出そろってきています。

いまのスマート農業は既存作業や業務フローのデジタル化がほとんどなので、結局は農業経営者次第なんですよね…ITを活用した方が楽だと思いますが、まあ苦手な人はどこの業界にもいますので、あえて農業を特別視する必要はないと思います。

個人的には、国への申請のデジタル化については、効率化の観点でぜひ進めて欲しいと思います。

スマート農業との付き合い方

現状、スマート農業は離れずくっつかずぐらいでお付き合いするのが良いと感じています。
無理のない範囲で農場の一部でサービスをテストしたり、情報を収集したりして、スマート農業に関わっている企業や生産者が何をしているのか、しようとしているのかがわかる位置にはいたほうが良いと思います。

スマート農業を普及する側、利用する側の両方の立場、農業以外の産業のこれまでの流れを見た上での私見ですが、

  • 稲作関連は国産サービスが残る。
  • 稲作以外は海外サービスが入ってきて、徐々に主流に。
  • 国内では1つか2つかのサービスのみ残り、農機メーカーに統合されていくのでは。

で、他に何が日本独自で成長するかなーと思うとHR(Human Resources)分野ではないかと思います。
企業的経営が増えていく中で、人材不足は明確に起こることがわかっている課題なので、いかに人材を集めて育成するかが鍵になっていくでしょう。

DXはあくまでも手段

「消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業(FaaS(Farming as a Service))への変革を進める」とも書かれていますが、これも農業DXで進むのか?というと、あんまり関係ないと思います。

そもそも、農業DXの意義・目的とも書かれていますが、農業DX自体(スマート農業自体)はあくまでも手段であって、これ自体が目的になることはないと思います。
いわゆる手段の目的化です。ある目的を実現するために農業DXという手段を選択したはずなのに、農業DXを推進すること自体が目的化してしまっています。

上の例でいくと、「消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供する農業」というのがどのようなものなのか、その意義・目的、方向性があって、そこにテクノロジーをどう使うかの順番だと思います。
で、消費者ニーズに的確に対応した価値を創造・提供するなんてことは、何年も前から言われていて、すでに多くの事業者が取り組んでいます。今更感が半端ないです。

農業DXから農業SXへ

欧州で今中心になっているのは「SX」でサステナビリティ・トランスフォーメーションと言われているそうです。DXはどちらかというとSXのための手段という位置付けで、手段であるDXの話が国民的なトピックになったりすることは稀なようです。

食産業はサステナブルな視点からは、二酸化炭素の排出量や食品ロスなど課題が多い産業としてあがりやすいです。そして、食産業の密接な関係にあるのが農業です。

農林水産省が、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定しています。https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/index.html

みどりの食料システム戦略もいろいろと言われているようですが、中長期視点からすると方向性に間違いはなく、サステナビリティを念頭においた農業への転換(農業SX)を目指すことは、これからの未来の農業には非常に重要だと思います。
文句を言っている人はいまの立ち位置から踏み出していないだけだと感じます。

消費者ニーズというのが単なる消費だけを考えるのはすでに時代遅れだと思います。学生や若い人と話をしていてもSDGsやエシカル消費の意識は非常に高まっているという印象です。

ただでさえ、変革のスピードが遅い食や農業では、十年以上先を見据えた活動が必要です。
農業DXを目的とするのではなく、あくまでも手段として、農業SXの構想(みどりの食料システム戦略をこう呼ばせてもらう)を進めて欲しいと思います。